本記事では『財産分与における退職金の取り扱い』についてわかりやすく解説します。
既に支払われた退職金
既に支払われた退職金は財産分与の対象であり、計算方法も単純です。
- 支給退職金額 × 同居期間 ÷ 勤務期間
例えば、夫が新卒(22歳)から定年(60歳)まで勤め上げたとします。もし入社前に結婚していれば退職金の全額が財産分与の対象になりますが、夫が入社してから結婚した場合、全額が財産分与の対象にはなりません。
仮に夫が32歳の時に結婚した場合には、22歳から32歳までの退職金は全額夫のものであり、財産分与の対象となるのは33歳~60歳までの28年間分の退職金です。計算式は以下のようになります。
- 支給退職金額 × 28年間 ÷ 39年間
将来支払われる退職金
次に、将来支払われる退職金について解説していきます。
将来の退職金は財産分与の対象
将来支払われる退職金について明確なルールはありませんが、過去の判例などを参考にすると以下のような考え方に落ち着くようです。
- 蓋然(がいぜん)性が高い場合のみ財産分与の対象
どのような場合であれば「蓋然性」が高いと判断されるのでしょうか?実は蓋然性の高低を判断する明確なルールは存在しないのですが、蓋然性の高低を判断する基準を強いて挙げるとすれば以下のようになります。
- 退職金規程の有無・内容
- 勤務年数
- 定年退職までの期間
- 勤務会社の規模
退職金を財産分与するタイミング
退職金を財産分与するタイミングには「離婚するタイミング」と「将来の退職金支給時」の2パターンがありますので、(仮に将来の退職金が財産分与の対象になる場合には)『財産の保有状況』や『財産分与の対象となる退職金の金額』などの状況に応じて交渉することになります。
将来支払われる退職金の計算方法
将来支払われる退職金の計算方法は2つありますが、実務上は『離婚時に退職したと仮定して』計算する方法が一般的なようです。
- 離婚時に退職したと仮定して計算する方法
- 将来の退職金見込額を基準とする方法
一流企業がいつの間にか上場廃止・身売りをすることも珍しくない時代ですし、退職金の規定が突然変更される可能性だって十分あります。
ですから「不確かな将来を前提にするより現在の状態を前提に話を進めるのが合理的」だと考えたとしても不思議ではないでしょうし、将来の退職金見込額を基準とするのは「もうすぐ退職する」場合のみでしょう。
退職金に関する判例
退職金に関する判例を2つ紹介します。
7年後に定年退職すると見込まれた判例
裁判の約7年後に定年退職予定の夫の退職金を、妻に支払うように命じた判決があります。なお支払うタイミングは『退職金が支給される』タイミングです。(参考:東京高決平成10年3月13日 家月50巻11号81頁)
将来の見込額を基準とした判例
6年後の退職金見込額を財産分与の対象にするように命じた判決があります。裁判所は婚姻期間相当分を財産分与の対象としその1/2の支払いを命じました。なお支払いのタイミングは『離婚時点』です。(参考:東京地判平成11年9月3日 判タ1014号239頁)
但し、退職金見込額の額面をそのまま財産分与の対象にしたわけではありません。裁判所は将来の退職金を現在の価値に引き直した金額で財産分与を命じたのです。
ちなみに『将来の退職金を現在の価値に引き直す』という考え方は、長期金利が2%程度あった平成11年には大きな意味があったでしょうが、長期金利がゼロ以下の状態では金利を考慮する意味はほとんどないでしょう。
最後に
財産分与における退職金の考え方について解説しましたが、明確なルールがあるわけではないことは是非ご理解ください。
なお財産分与について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
