配偶者が失踪してしまったら離婚できるのでしょうか?
配偶者が失踪した場合、離婚届を役所に提出することもできませんし、調停に呼び出すこともできません。
しかし「ある条件」を満たせば離婚を成立させることができます。
そこで本記事では、配偶者が失踪してしまった場合の離婚手続きにつぃて紹介していきます。
失踪により離婚できるか判定
上図は、配偶者が失踪してしまった時のパターンを洗い出したものです。
- 生存確認ができる場合
- 捜索したが生死不明(3年未満)
- 捜索したが生死不明(3年以上)
- 捜索したが生死不明(7年以上)
それぞれのパターンについて順に説明していきます。
#1) 生存確認ができる場合
配偶者が行方不明であっても、生存確認できる場合には離婚できません。例えば配偶者が存命であることを証明する手紙と生活費が定期的に送られてくる場合などは離婚できません。
一方で生存確認ができているものの正当な理由なく生活費を渡さない場合は、「悪意の遺棄」として離婚が認められる可能性があります。

#2) 捜索したが生死不明(3年未満)
まず失踪してから3年未満の場合は、原則として離婚できません。しかし「飛行機墜落事故により遺体が見つからない」など、特別な事故の場合には離婚が認められます。
#3) 捜索したが生死不明(3年以上)
3年以上の期間にわたり配偶者が生死不明の状態であれば、離婚が認められます。
#4) 捜索したが生死不明(7年以上)
7年以上の期間にわたり生死不明の状態が続いた場合は、配偶者の「死亡」が認められます。
7年以上の期間にわたり生死不明の状態が続けば「失踪宣言の申し立て」をすることで配偶者は死亡したとみなさます。
ここで注目すべきポイントとしては、離婚すると失踪宣言できなくなるということです。
3年以上の生死不明が確定した時点で離婚したほうがいいのでしょうか?それとも7年以上の生死不明まで離婚せずに失踪宣言すべきなのでしょうか?
この点については、後ほど詳しく解説したいと思いますが、まずは3年以上の生死不明で離婚する方法について解説します。
3年以上の生死不明で離婚する方法
3年以上の生死不明は、他の離婚事由と大きく異なる点があります。それは「相手がどこにいるかわからない」という点です。
協議離婚しようにも話し合うことができませんし、調停・裁判しようにも配偶者を呼び出すことはできませんので、離婚するために「公示送達」の手続きを行う必要があります。
公示送達の申し立て
公示送達とは、裁判所の掲示板に書類を掲示することで、被告に裁判が起こされたことを知らせる方法です。そして公示送達により、被告の所在がわからなくても裁判離婚を申し立てることが認められています。
裁判所の掲示板に書類を掲示するだけですから、生死不明の配偶者が公示送達に気付く可能性は限りなく低いですが、公示送達から2週間が過ぎると、被告が出頭しなくても裁判を進めることができます。
裁判では、原告の主張に間違いがないか証拠調べを行った後、判決が下されます。
公示送達の申し立てに必要なもの
公示送達の申し立てに必要なものは、以下の4点です。
- 公示送達申立書
- 住民票
- 戸籍の附表
- 住所地に住んでいないことを証明する書類
詳しくはあなたの住所地を管轄する裁判所に問い合わせてください。なお全国の裁判所はこちらから探してください。
参考 各地の裁判所一覧裁判所次に解説するのは、失踪宣告制度を利用して離婚する方法です。
失踪宣告制度を利用して離婚する場合
失踪宣言制度とは、生死不明の者(死体を確認できていない者など)の死亡認定をして、法律関係をいったん確定させる便宜上の制度のことです。
失踪宣告制度を申立てる人
失踪宣告制度を利用できるのは以下の人です。
利害関係人(不在者の配偶者,相続人にあたる者,財産管理人,受遺者など失踪宣告を求めるについての法律上の利害関係を有する者)
【引用:裁判所のホームページ】
失踪宣告の手続き
取り残された配偶者は、所定の用紙に記入した上で、家庭裁判所に失踪宣告の申請をします。
申請後、家庭裁判所が生死不明の調査を行って事実関係を確かめた上で、「失踪宣告」の審判を下すことになります。
失踪宣告後本人が戻って来たら?
もしも失踪宣告後になって本人が戻って来たらどうなるのでしょうか?
失踪宣告は法律関係をいったん確定させるための便宜上の制度ですので、本人が戻ってきた場合には「失踪宣告取消」の申し立てをすることができます。
しかし注意事項もあります。この手続きによって身分も財産も失踪前の状態に戻れるのですが、全て元通りというわけではありません。
例えば失踪宣告を申し立てた側が再婚していれば、再婚の事実が優先されますし、すでに分配された財産が使い込まれていればそれを取り戻すことはできないのです。
公示送達か失踪宣告か?
これまで、公示送達や失踪宣告についてお伝えしてきました。
公示送達と失踪宣告のどちらを選ぶかは、人それぞれの考え方によりますが、失踪人を待たずに早く再出発したいのであれば、失踪から3年が経過した時点で公示送達手続きにより離婚するのが無難でしょう。
その一方で「失踪人の資産が巨額」である場合は、離婚せずに失踪宣言ができる7年が経過するまで待ったほうがいいと考えられます。
一般的に離婚時には財産分与によって、夫婦の共有財産が半分ずつに分割されます。
しかし共有財産とは「夫婦が婚姻してから離婚するまでに築いた財産」のことであり、財産分与の対象範囲には特有財産は含まれていません。そのため失踪人が相続した財産などは、離婚時の財産分与の対象外になってしまうのです。
一方で配偶者の失踪宣言をして死亡が確定すれば、あなたには共有財産と特有財産を相続する権利が発生します。財産の有無だけが、『離婚』と『失踪宣言』のどちらを選ぶか判断する基準ではないとは思いますが、覚えておいて損はないでしょう。
失踪者の見つけ方
もしも失踪した人間を見つけたい場合に真っ先に思い浮かぶのは「捜索願」を警察に提出することでしょうが、捜索願に過度な期待をしてはいけません。
警察では行方不明者を探せない理由
以下の条件を満たす場合には警察は積極的に捜索してくれません。
- 失踪した本人が成人
- 失踪した経緯に事件性がない
- 自らの意思で失踪したと思われる
そもそも警察は失踪者を探す機関ではありませんし、失踪人を探すのに十分な人手を確保できるわけでもありません。
またご存知ない方も多いと思うのですが、仮に警察が失踪人を発見した場合であっても、失踪人が成人の場合は本人が望まなければ居場所を家族に教えることはありません。
もちろん警察としても失踪人を見つければ「君、捜索願が出されているよ。」などと本人には伝えるかもしれませんが、失踪人本人が家族への連絡を拒否すればそれで終わりです。
自らの足で探すか、興信所を利用するか
失踪者を探すためには2つの方法が現実的です。
- 自分の足で探すか
- 興信所を利用するか
自分の足で探すにせよ、興信所を利用するにせよ、いずれしても非常に高いコストがかかります。
ある男性は、生き別れになった母を幼い頃の記憶を頼りに20年間探し続けた結果、ようやく母を発見したそうです。まさに「母に会いたい」という執念が実を結んだ結果だといえます。
失踪者を探すのは雲をつかむような作業であり、なおかつ失踪してから時間が経過すればするほど手がかりは少なくなり、捜索の難易度は高くなっていきます。
自力で探す自信がなければ、興信所に相談にのってもらうことも検討すべきでしょう。