離婚を前提に別居する場合には、それなりの準備は欠かせませんし、一度別居すれば引っ込みがつかなくなってしまいます。
そこで「別居する前にやるべきことを全部やっているのか?」ということを確認してもらうために、離婚準備のチェックリストを準備しましたので参考にしてください。
別居する前の確認事項(1)
別居する前の確認事項について解説します。
マイホーム(1-1)
マイホームから引っ越すなら要注意です!
離婚を前提として家を飛び出した場合、簡単に家には戻れません。なぜならば別居時点で「夫婦関係破たんの状態」と見なされるからです。
「夫婦関係破綻の状態」ですから当然ながら、配偶者の許可なくマイホームに足を踏み入れることはできません。配偶者の許可なく立ち入った場合「住居不法侵入」で訴えられるリスクもあります。
ちなみにマイホームは財産分与で大きな割合を占める「資産」です。別居を開始する前にマイホームの資産としての価値を把握しておくことをお勧めします。
もちろん別居後に不動産業者による査定は可能です。しかし先ほど説明しましたが、配偶者の許可なくマイホームに足を踏み入れることはできません。
そのためどうしても家を内覧しないで査定せざるを得ません。内覧せずに不動産価格を査定する場合、実際の売買価格よりも数百万円単位で高くなる傾向があります。
なぜならば不動産のマイナスポイントは内覧しないとわからないからです。例えば「壁に大きい汚れがある」というようなことは、内覧しないと確認できません。
内覧せずに不動産価格を査定する場合、2,000万円の価値しかない不動産が2,500万円と査定されることも珍しくありません。つまり「本来は存在しない資産」を当てにして離婚後の生活を設計するリスクがあるのです。
いずにせよ離婚すればマイホームは財産分与の対象となります。不動産の現状確認は絶対に怠ってはいけません。具体的には、以下の項目については別居前に確認しておくべきです。
- 不動産の実勢価格
- 住宅ローン残高
- 不動産の所有名義
- 連帯保証人
- 連帯債務者 etc
不動産の実勢価格に興味がある方は、以下の記事をチェックしてください↓↓↓↓

婚姻費用(1-2)
別居中でも夫婦は助け合う義務(生活扶助義務)があります。ですからお金を稼いでいる側は、配偶者の生活費(婚姻費用)を負担しなければなりませんが、婚姻費用の金額自体は夫婦の合意があれば自由に設定することが可能です。
とはいえ別居に至った経緯については夫婦間で『認識の齟齬』が発生することことも多く、婚姻費用の金額でモメることも珍しくないため、家庭裁判所では婚姻費用を算定するルールを導入しています。婚姻費用の算定には、以下3つの要素が大きく影響しています。
- 夫婦の年収格差
- 子供の人数
- 就業形態
婚姻費用を算定するには「婚姻費用算定表」を用いるのが一般的ですが、自動計算するシステムも無料公開されていますから是非とも活用してください。

財産分与(1-3)
財産の総額を把握していますか?
離婚が成立した場合、別居時点の財産が分与の対象になります。しかし一度別居すると財産の全容を掴むのが困難になりますので注意が必要です。(別居すれば気軽に元の家に足を踏み入れることができなくなる!!)
別居後に元の家に無断で立ち寄れば住居不法侵入のリスクがあります。ですから最低でも、配偶者の年収を証明する源泉徴収票のコピーは持ち出すべきです。
その他、年収や財産を証明するあらゆる証拠があれば手元に置いておくべきです。そうすれば「財産はない」と配偶者に主張された時でも、泣き寝入りせずに戦うことができます。
なお財産分与について詳しくは以下の記事を参考にしてください。

証拠収集(1-4)
あなたが別居する理由はなんですか?
もしも配偶者に明確な落ち度があるなら証拠を残しておきましょう。特に配偶者による「不貞行為」、「DV」があれば証拠収集は怠ってはいけません。
別居の理由を証明する証拠があれば、離婚協議を有利に進めることが可能ですし、離婚が認められる事情ごとに用意すべき証拠はある程度決まっていますので一度確認することをおススメします。

別居開始時の注意点(2)
別居開始時の注意点についてまとめておきます。
別居検討のタイミング(2-1)
別居を検討すべきタイミングは、配偶者に落ち度がある時です。
具体的には、以下のような事情が考えられます。配偶者に落ち度があることを別居前に確認しましょう。
- 不貞行為
- DV・モラハラ
- 悪意の遺棄
- 失踪
- 多額の借金
- 働かない
- 過度な宗教活動
- 性の不一致 etc
理由なき別居のリスク(2-2)
夫婦は同居し、経済的に助け合い、協力しなければいけません。配偶者の許可なく別居すれば、同居義務、協力義務を果たすことができません。
夫婦の義務には、同居義務の他にも、扶助義務、協力義務などがあります。
別居すれば「なぜ別居したのか?」と理由を問われます。理由もなく別居すれば、配偶者は「身勝手な態度で誠意の欠片もない」とあなたを非難するでしょうし、家庭裁判所に身勝手な別居だと判断されれば、婚姻費用の減額もあり得ます。
またもしあなたが世帯主であるにも関わらず扶助義務を放棄すれば、裁判所に「悪意の遺棄」による有責配偶者として認定され、離婚が遠のくことも覚悟しなければなりません。日本の裁判所は、不貞行為、DV、悪意の遺棄に及んだ側を助けてはくれないのです。
別居すべきでないケース(2-3)
別居すべきでないケースは、あなたに非がある場合です。あなたから率先して別居すれば、自らの非を認めることになりかねないため要注意です。
あなたの非を証明するのはあくまでも配偶者ですので、仮にあなたに非があったとしてもまずは冷静になって同居するなどして「-」の状況(有責配偶者が疑われる状況)から「ゼロ」の状況へのリカバリーを目指すのです。
逆説的になりますが、非があればこそ夫婦円満を目指すべきなのです。そうすれば「別居は過去のあなたの浮気が原因!」というような配偶者からの主張を、夫婦円満の証拠(同居)で上書きすることが可能になります。
浮気やDVの証拠を掴まれていてもその効力は永遠ではありませんので、効力が失効するまで「何もしない」のも一つの戦略といえるでしょう。
浮気の証拠の効力は3年が一つの目安になるといわれています。「非がある証拠を掴んだのに離婚しないのは許したから」と判断されるのです。
別居を開始するコツ(3)
別居を開始する際のコツについて解説します。
話し合いを尽くす(3-1)
別居する理由は離婚するためですか?別居の目的が離婚ならば「話し合うこと」から始めるべきです。
もしあなたが DV被害者であったり、配偶者が有責配偶者である証拠をもつ場合は、必ずしも話し合いからスタートする必要はありません。
あなたからすれば「話し合いの余地はない」という状況であっても、配偶者に弁明の機会を与えなければ配偶者が感情的になり、「どんな条件を提示されても意地でも離婚しない!」と決断されるリスクがあるのです。
「離婚」の2文字をつかわない(3-2)
別居する時に「離婚」の2文字を気軽に利用すれば、「離婚を切り出して夫婦関係を破綻させたのはあなた」と配偶者から主張されるリスクがあるため、「夫婦関係を見直すために距離を置きたい」という主張を認めてもらってから別居することをおススメします。
離婚不受理届けの提出(3-3)
一度別居が開始されたらいつ離婚が成立しても不思議ではありません。極端な話、「別居を続けるより早期に離婚したほうが得」と配偶者に判断され、離婚届を無断で提出されるリスクだってあります。
もちろんあなたの同意がない離婚届は当然ながら無効なのですが、無効を求めて裁判を起こす必要があるので無駄な手間が一つ増えることは間違いありません。
無断で離婚届を提出されるリスクに対処するためには、離婚不受理届の提出が有効です。離婚不受理届けを提出すれば、あなたが届出を取り下げない限り離婚届は受理されません。
離婚不受理届について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。

別居の注意点(4)
別居中は、おとなしく過ごしましょう。配偶者に攻撃材料を与えるような行動は慎むべきです。
例えば離婚を前提とした別居でないのに不貞行為に及んでしまったら、配偶者が「あなたが別居したいのは交際中の異性がいるから!?」と主張するのは当然のことでしょうし、きっとあなたは有責配偶者認定されてしまうでしょう。
有責配偶者認定されれば、離婚から遠ざかることは既にお伝えした通りです。
別居後にやること(5)
別居後にやるべきことを整理しておきます。
住民票の移転(5-1)
別居したら住民票は移すのが原則です。住民票を移すことで別居していた事実の証明が容易になります。
但し、別居の原因が配偶者のDVなどの場合は要注意です。なぜならば、住民票を手掛かりに居場所を突き止められる可能性があるからです。
住民票の閲覧制限を役所に届け出る場合、基本的には警察に相談する必要があります。警察から受け取った書類を役所に提出すれば手続き完了です。
詳しい手続きを知りたい方は、管轄の警察に事前に相談しておきましょう。「戸籍の附票(ふひょう)と住民票の閲覧制限について相談をしたい」と伝えればOKです。
とはいえ生死の危険を感じるのであれば住民票は移さず雲隠れするのが正解かもしれません。なぜならば警察・役所の対応に完璧を求めるのは無謀だからです。
過去には閲覧制限があるにも関わらず、ストーカーに情報が漏洩した事件もありますので、詳しく知りたい方は「逗子ストーカー」で検索してみてください。
補助金・助成金の申請(5-2)
別居時に補助金・助成金を申請できる事実はあまり知られていません。
- 児童扶養手当
- 生活保護
以上の2つが別居時の補助金・助成金の代表例です。
申請すれば必ずもらえるわけではありませんが、頭の隅に入れておきましょう。なお、離婚後に申請できる補助金・助成金等は以下の記事に整理しています。

離婚調停(5-3)
以下の条件に当てはまれば離婚調停を検討しましょう。
- 離婚の意思が揺るがない
- 配偶者が離婚を認めない
なお配偶者が離婚を認めても状況によっては離婚調停を検討しましょう。具体的には以下の条件です。
- 夫婦間で離婚することは合意済み
- 配偶者が離婚協議書の作成を拒む
- 早急に離婚する必要がない
特に配偶者に契約書の作成を拒否されたら、いっそのこと離婚調停に話を持ち込みましょう。離婚調停での合意は「調停調書」という公文書に残りますので、約束をあやふやにすることがないので安心できます。
なお協議離婚する場合でも離婚協議書は「公正証書」にするのがベストです。公正証書の絶大な効力については、以下の記事をご覧ください。
別居の関連知識(6)
別居の重要性(6-1)
別居は離婚において2つの大きな意味をもっています。
- 夫婦関係破たんの証拠
- 財産分与の基準点
夫婦関係破たんの証拠(6-1-1)
「どうしても離婚したければ、早急に別居すべし!」
以上の格言は、ちまたの離婚本では頻繁に目にします。なぜならば配偶者に離婚を拒否され、(なおかつ配偶者にも非がなければ)、夫婦関係が破たんしていることを証明するしか離婚する手立てがないからです。
ちなみに夫婦関係の破たんを証明する方法は1つではありません。例えば、以下のような事情が考えられますが、裁判官によって離婚を認めるか認めないかの判断はバラつきます。
- 子供を望んでいるのにセックスレス
- 舅・姑からの壮絶なイジメを見ぬふり
- 過度な宗教活動を辞めず家事をしない
- 働かないでプラプラしている etc
その一方で「長期間の別居」は誰の目にも明らかです。別居の原因をめぐって夫婦で争うことはあっても、「別居している」という事実は揺らがないため、夫婦関係が破綻している証拠づくりの一環として「別居する」ことが推奨されるのです。
但し、「別居」と「夫婦関係破たん」には密接な関係にあるのは確かですが、その関係性は明確に定義されていません。だからこそ「長期間の別居」というように「長期間」という曖昧な表現になってしまうのです。長期間の期間が、2年なのか3年なのかハッキリしないのもそのためです。
財産分与の基準点(6-1-2)
財産分与の基準時は別居開始時です。別居を開始した時点の財産が、財産分与の対象になるのです。
財産といっても、相続財産や婚姻前からの財産は財産分与の対象ではないので注意してください。
なお別居開始時の財産額を、別居後に調べるのは非常に困難です。別居する前に、財産分与について正確な知識をもっておきましょう。
そして夫婦の共有財産について、なるべく正確に把握しておきましょう。
別居の基準(6-2)
別居の基準はどこにあるでしょうか?
別居という言葉を沢山使ってきました。改めて「別居」について考えてみましょう。
同居とは「同一家屋に居住していること」です。一方で別居とは「お互いが行き来するために一度外に出る必要がある状態」です。
では家庭内別居では夫婦関係の破たんは認められないのでしょうか?
家庭内別居で夫婦関係破たんを認めてもらうのは一筋縄ではいかないと思います。少なくとも居住空間が1階と2階で完全に別、玄関が別などの事情が必要です。
別居期間と離婚の関係(6-3)
夫婦関係の破たんが認められる別居の年数は何年でしょうか?
「確かなことはわかりません」というのが結論です。夫婦関係の破たんは別居期間だけで判断するものではないからです。
- 別居に至るまでの事情
- 婚姻期間
- 離婚への意思の強さ etc
夫婦関係の破たんは、上記の事情を踏まえて総合的に判断されます。
「婚姻期間が半年、別居期間1年」で夫婦関係破綻が認められたようば裁判事例もありますが、一般的には婚姻期間が長ければ夫婦関係破たんが認められる別居期間は長くなるようです。
近年では夫婦関係破たんと認定される別居期間は短くなってきていますが、裁判官によって判断にバラつきがあるようなので、複数の弁護士の見解を聞いておくことをオススメします。
別居中の面会交流権(6-4)
日本は単独親権を採用しています。そのため離婚すれば夫婦のどちらかは親権を失います。
もちろん別居中は夫婦の両方に親権があります。片方の親がもう片方の親が子供と会う権利を奪ってはいけませんが、子供と交流する機会は同居する親の都合に左右されるのが現実です。
例えば子供と同居している側の親が子どもに対して、「(別居している親と)会いたくないと主張しなさい!!!」と命令したらどうなるでしょうか?
子供にとって別居する親よりも同居する親のほうが影響力が強いため、子供が同居中の親に気を遣い「会いたくない」と主張することは不思議なことではないでしょう。
ちなみに別居中の面会交流権の拒否が許されるのは以下のような条件です。
- 子供が会いたくないと主張
- 子供に対するDVの可能性
- 子供を連れ去る可能性
- 片方の配偶者の悪評を吹き込む
- 子供に対する悪影響が認められる etc
別居のメリット(6-5)
別居の一番のメリットは「本当の自分の気持ちがわかる」だと思います。
別居してから離婚の意思がますます固くなる人もいます。「なんで結婚にこだわっていたのか?」と一転して離婚を目指すのです。
一方で別居することで離婚をためらう人もいます。配偶者のことを「やっぱり好きだった」と夫婦円満を目指すケースもあるのです。
別居すれば幸せになれる保証はありません。しかし離婚しなければわからないこともあるのは事実だと思います。
別居のデメリット(6-6)
別居のデメリットはあなたの立場によって異なります。
一般的には以下の条件に当てはまれば別居にデメリットを感じるでしょう。
- 離婚したくない
- 経済的に配偶者より裕福
別居により夫婦関係破たんを主張されるでしょうから、離婚したくない人には望ましくありません。
また経済的に配偶者より裕福であれば、配偶者に婚姻費用を支払わなければいけない状況に追い込まれる可能性があります。
逆に言えば、離婚を望んでおり、なおかつ経済的に配偶者よりも恵まれていなければデメリットは少ないです。収入がない専業主婦が離婚するために別居を選択するのもそのためです。
但し、根拠なく身勝手に別居をすれば、その行為自体が夫婦関係破たんを招いたと配偶者に主張されるリスクもあることは忘れてはいけません。
別居理由を捏造する事例(6-7)
別居の理由がない場合「ねばり強く交渉する」のが一般的ですが、交渉が決裂しても離婚することを諦められないような場合、別居理由を捏造する人もいるようです。例えば「DV被害を捏造」する女性は年間4,000認定度存在すると言われています。
DV被害者は守るべき存在として社会的には認知されていますので、DV被害は医療機関での診断書があれば認められやすいのです。
加害者だと疑われている側が「DV被害は捏造だ!」と主張しても、残念ながらその立証は難しいのが実情ですし、仮に『DV被害の捏造』が発覚しても大した罪にはならないため、DV被害を捏造する方が後を絶ちません。
子供を連れ戻すのは可能か?(6-8)
別居中に子供を連れ去られたらどうすればよいでしょうか?
親の都合で子供の成育環境が頻繁に変わるのは望ましいことではないと考えられているため、別居中に子供を連れ去った側は不利な立場に置かれます。
つまり「子供を最初に連れ去ったもの勝ち」というのが日本の実情なのです。連れ去られた子供を連れ戻す方法に興味がある方は、以下の記事を参考にしてください。
専従者給与を支払えるか?(6-9)
実は別居中の専従者給与の支払いは認められません。専従者給与の支払いが認められるのは「生計を一にする人」に限られます。
別居した配偶者は、生計を一緒にしていると認められません。
婚姻費用と税金の関係(6-10)
婚姻費用の支払いに関しては「非課税」ですが、婚姻費用を超えたお金には「贈与税」が発生します。
とはいえ、離婚後に税務署から連絡がくる事態に発展することは稀だと思います。一般庶民の別居中のお金のやり取りを税務署が関心をもつことはないでしょう。
但し、医者・弁護士・経営者・資産家などは要注意です。なぜならば、税務署は「大物」の資産の動きを継続的にチェックしているからです。
特に不動産などを売却して現金を捻出すれば目をつけられると考えていいでしょう。なぜならば不動産移転登記の事実は、管轄の税務署に共有されるからです。
もしも税務署から連絡がきたら、素直に申告漏れを認めてお金を払いましょう。下手な言い訳は「意図的な税金逃れ」と見なされてペナルティーを課されるので注意してください。
ちなみに税務署から連絡がきた時点で、税務署は証拠を掴んでることを忘れてはいけません。(税務職員が訪問して直接確認した案件のうち8割は税金を支払っているそうですよ!!)
なお離婚時に発生する税金について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください!

最後に
離婚準備において、別居は重要局面であることは間違いありませんので、くれぐれも準備は抜かりないようにしてください!