離婚が認められている民法の規定の1つに「悪意の遺棄」があります。では「悪意の遺棄」とは一体どのような意味なのでしょうか?
本記事では悪意の遺棄の意味や判例、慰謝料などについて詳しく解説します。
悪意の遺棄の意味(1)
悪意の遺棄とはどのような意味でしょうか?「悪意」と「遺棄」のそれぞれの意味を考えていきます。
悪意とは?(1-1)
悪意があるかないかを第三者が判断するのは非常に難しいです。
法律上の解釈では、一緒に仲良く暮らす夫婦関係を壊すように計画したり、それを許す行為全般のことを指します。
一橋大学名誉教授の法学者である島津一郎先生も著書の中で以下のように説明しています。
悪意とは、社会的・倫理的に非難されるべき心理状態のことであり、積極的に婚姻共同生活の根絶を企図し、またはこれを認容する意思を指す。
【引用:「新版注釈民法(22)親族 有斐閣・平成20年 366頁】
遺棄(1-2)
遺棄とは、以下のように解釈されるのが一般的です。
正当な理由のない同居・協力・扶助義務(民法752条)または婚姻費用分担義務の不履行
つまり悪意の遺棄とは、夫婦の仲を壊すために同居・協力・扶助しない、または婚姻費用を支払わない場合に適用される行為だということです。
悪意の遺棄の該当例・該当しない例(2)
悪意の遺棄とは、配偶者を自宅に置き去りにすることだけが該当するわけではありません。
配偶者が自宅を出ていかざるを得ない状況にした場合や、同居していたとしても正当な理由なく帰宅しない場合なども悪意の遺棄に該当します。悪意の遺棄に当てはまる具体例を箇条書きにします。
- 生活費を妻に渡さない
- 正当な理由も無く同居を拒否
- 家出を繰り返す
- 家を出ざるを得ないようにしむける
- 相手の帰宅を拒否・妨害する
- 愛人宅にいりびたって帰ってこない
- 姑との折り合いが悪く実家に帰ったまま
- 別居中の婚姻費用を支払わない
- 働ける健康体なのに働かない
- 単身赴任なのに生活を送付しない
- 専業主婦が家事の全てを放棄
- 共働きなのに片方が家事を放棄
一方で悪意の遺棄に当てはまらない例を箇条書きにします。
- 正当な理由があって生活費を渡さない
- 単身赴任による別居
- 冷却期間を置くための別居
- 出産や療養のための別居
- 育児や教育のための別居
- 家を追い出されたことによる別居
- 正当な理由による同居の拒否
以上の例を確認すると、既に夫婦関係が破綻している状況が理解できると思います。
ここで多くの方が疑問に思うことは、民法第770条で規定されている離婚原因の一つである「その他婚姻を継続し難い重大な事由」と悪意の遺棄との違いだと思います。
実は、実際の裁判例を調査すると悪意の遺棄で離婚が成立した事例はとても少ないです。裁判では「悪意の遺棄」とまではいえないが、「婚姻を継続し難い重大事由」があるとして離婚を認める事例は多いです。
なお具体的な事例については、この記事の最後で紹介していきます。
悪意の遺棄の慰謝料(3)
悪意の遺棄で離婚が認められた事例はとても少ないため、悪意の遺棄による慰謝料の相場についてはよくわかりません。
悪意の遺棄と生活費との関係(4)
別居中の生活費は夫婦の収入格差、子供の人数、就業形態によって算出します。あくまで1事例ですが、以下の条件で婚姻費用を算出した結果を紹介しました。
サラリーマン | 自営業者 | 婚姻費用額 |
---|---|---|
325~ | 236~ | 6~8万円 |
425~ | 308~ | 8~10万円 |
525~ | 382~ | 10~12万円 |
650~ | 477~ | 12~14万円 |
775~ | 559~ | 14~16万円 |
900~ | 641~ | 16~18万円 |
1,025~ 1,100 |
728~ 781 |
18~20万円 |
- 専業主婦(年収0)が夫に婚姻費用を請求する場合。0~14歳の子供が1人いる場合
※ 子供の人数が1人よりも多ければ、上記金額よりも高くなります。逆に、妻の収入が多ければ上記金額よりも安くなります。
婚姻費用として相手に請求できる1か月あたりの金額の目安がついたら、相手が不当に支払わなかった分の総額を計算し、きちんと相手に請求するべきです。
しかし以下のような状況では、婚姻費用を請求することはできませんので要注意です。
- 悪意の遺棄をした側の収入が著しく低い
- 悪意の遺棄をした人物の行方がわからない
- 別居に正当な理由がない
お金がない人や行方がわからない人からは婚姻費用を回収できませんし(裁判所も借金してお金を支払えとは命令しません)、別居した理由に正当な理由がなければ婚姻費用を請求しても認められない可能性があるということは覚えておきましょう。
ちなみに悪意の遺棄に及んだ側は有責配偶者と認定されます。有責配偶者とは、夫婦間の義務を破った側のことです。
そして裁判所は有責配偶者の味方になることはありません。具体的には、裁判所は有責配偶者からの離婚請求を認めません。「悪いことしたのに離婚したいなんてバカも休み休みいえ!」ということです。
つまり悪意の遺棄の被害にあった側が離婚を望まない限り、相手からの離婚請求は認められませんので、もしあなたが被害者なのであればこの状況を被害者は最大限生かすべきです。
具合的には、あなたが悪意の遺棄をする相手と離婚してもいいと思ったとしてもそのまま離婚をしては損をしますので、まずは家庭裁判所で「夫婦関係調整調停(円満)」を申立てることをおススメします。そしてその場で婚姻費用の請求を一緒に申立てるのです。


悪意の遺棄と親権との関係(5)
悪意の遺棄と親権との関係について解説していきます。悪意の遺棄と親権には直接的なほとんどありません。
親権をとるために重要なことは、子供と離れないことです。もしも別居が離婚につながる可能性があり、親権を望むのであれば子供を連れて行くべきです。
しかし、注意して欲しいこともあります。それは仮に離婚が成立し、親権を取得することができても、相手に子供を合わせなくてもいいということではありません。
正当な理由がなく子供を連れ去られた結果、親権を奪われて子供ともなかなか会えない男性はとても多いです。実はそのような実態は長らく日本では議論の対象となり、疑問視されています。
そんな中で、注目すべき裁判があります。その裁判では離婚が成立し長期間子供と一緒に暮らしていた母親が、父親から親権を求めて訴えられていました。
通常であれば、子供と母親が一緒に暮らす期間も長いこともあり、母親が絶対に有利だといわれていました。
しかしこの裁判で母親が「父親に許可した子供との面会条件の厳しい実態」が明らかになったこともあり、裁判の結果は父親の勝利となりました。(全国ニュースでも取り上げられました。)
- 短い時間しか子供に会わせない
- 父親が子供と会うのは母親の監視下でのみ
つまり裁判所は異常なまでに父親の面会交流権を制限する母親の訴えを認めなかったのです。
なお現在日本では、子供が親権を失った側と会う権利(面会交流権)にとても注目が集まっています。その証拠に、離婚届にも面会交流権と養育費について注意事項が記載されています。
上記は離婚届の一部分を切り取ったものです。面会交流権と養育費の分担について取り決めをしたかというチェック項目があります。それに加えて、以下のような記載があります。
未成年の子がいる場合に父母が離婚をするときは、面会交流や養育費の分担など子の監護に必要な事項についても父母の協議で定めることとされています。
この場合には、子の利益を最も優先して考えなけえればならないこととされています。【引用:離婚届】
上記の記載からわかることは、子供との面会を許せば許すほど養育費の支払いを強く要求できるということでもあります。
もしも子供を連れ去り別居をすることで親権を手に入れることができたとしても、面会交流と養育費のバランスはきちんと考えておくべきです。
悪意の遺棄の証拠・証明する方法(6)
悪意の遺棄の証拠・証明するものを以下の順に紹介します。
- 同居義務違反の証拠
- 協力義務違反の証拠
- 扶助義務違反の証拠
同居義務違反の証拠(6-1)
同居義務違反の証拠を箇条書きにしておきます。
- 同居拒否の会話を録音したもの
- 一方的に出て行ったことを示す手紙・メモ
- 別居がわかる住民票・賃貸契約書
正当な理由がなく同居しないことを証明するには、相手に喋らせるのが一番です。相手を説得しているにも関わらず相手が応じない様子を記録に残しましょう。
協力義務違反の証拠(6-2)
協力義務違反の証拠を箇条書きにします。
- 源泉徴収票・給与明細書
- 家計簿
- 預貯金通行のコピー(多額の引出し履歴)
- 消費者金融の利用明細書
- クレジットカードの利用明細書
- 購入したものの写真
- ギャンブル中や趣味活動中の写真や映像 etc
つまり給料があるにも関わらず生活費を入れないことを家計簿を持って証明するのです。もしくは多額の預金を引出し、借金をしてまで浪費している事実を証明するのです。
扶助義務違反の証拠(6-3)
扶助義務違反の証拠を箇条書きにします。
- 日記・メモ
- 生活状況がわかる写真や映像
- 第三者の証言(親族や知人)
扶助義務違反の証拠として一番取得が容易なのは、生活状況がわかる写真や映像を継続的に記録の残すことです。
ゴミ屋敷のように家が散らかっても、掃除されていない様子などを明確にしておくのです。
悪意の遺棄の判例(7)
悪意の遺棄の判例を紹介します。
- 仕事を理由に帰宅しない夫への離婚請求(認容)
- 家を飛び出した妻から夫に対する離婚請求(棄却)
- 実家に帰省して帰らない妻への離婚請求(認容)
- 別居するように仕向けた行為を理由とした離婚請求(認容)
- 身体障害者を置き去りにした事案(認容)
悪意の遺棄の「悪意」の有無を判断する元になるのは、同居拒否に至る経緯、同居拒否に至った理由(正当な理由の有無)、別居期間、別居後の対応等です。
それらに注目して悪意の遺棄の判例を見ていただくと理解が深まると思います。
仕事を理由に帰宅しない夫への離婚請求(7-1)
大阪地裁判決昭和43年6月27日(判例時報533号56頁)の事例を紹介します。まずは、裁判の概要をまとめておきます。
裁判の流れ | 【第一審】 ⇒妻(原告)が夫(被告)を訴えた【大阪地裁判決昭和43年6月27日】 |
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夫婦の歴史 | ・ 昭和20年 婚姻 ・ 昭和23年 長女出生 ・ 昭和32年 夫の外泊が続き生活費を渡さない ・ 昭和34年 夫が住民票を移動(月に数回は帰宅) ・ 昭和40年 妻に一切の生活費を渡さなくなる。妻は夫から暴力を受けて家出。そのまま別居。 |
この裁判は、仕事を理由にほとんど帰宅しない夫に対する妻からの離婚請求です。
仕事のためとはいえ、あまりに多い出張・外泊等の妻と子供を顧みない行動は、同居協力扶助の義務を十分に尽くしていないと判断されました。
しかし判決では「悪意の遺棄」(民法770上1項2号)の離婚請求までは認められていません。
判決では、悪意の遺棄とまではいえないが、「婚姻を継続し難い重大事由」(民法770条1項5号)があるとして離婚請求が認められました。この裁判でのポイントは2つあります。
- 悪意の遺棄と認定されない場合がある
- 悪意の遺棄でなくても離婚が認められた
悪意の遺棄と認定されない場合がある(7-1-1)
この裁判での1つ目のポイントは、「なぜ?夫の同居協力扶助の義務違反を認めながらも、悪意の遺棄と認定しなかったのか?」という点にあります。
裁判では「遺棄」を認めなかった理由として以下のポイントを挙げています。
- 夫は仕事目的で外出していたこと
- 夫が月に数回程度は帰宅していたこと
- 生活費を渡さない頃には、妻の収入が相当額になっていた
つまり妻の収入だけでも、妻と子供が生活するには余裕があったことが判断に大きな影響を与えたようです。
悪意の遺棄でなくても離婚が認められた(7-1-2)
この裁判での2つ目のポイントは、「悪意の遺棄」として認められなくても離婚が認められたという点です。
判決では「悪意の遺棄」とまでは評価できなくても、同居・協力・扶助義務を十分に尽くしていない場合は、婚姻を継続し難い重大な事由ありとするには十分と判断しています。
家を飛び出した妻から夫に対する離婚請求(7-2)
水戸地裁判決昭和43年7月31日(判例タイムズ227号219頁)を紹介します。
裁判の流れ | 【第一審】 ⇒妻(原告)が夫(被告)を訴えた【水戸地裁判決昭和43年7月31日】 |
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夫婦の歴史 | ・ 昭和40年 婚姻 ・ 昭和40年 妻は仕事を辞め、夫の仕事のために茨城県に移住 ・ 昭和41年 妻は経済的不安から東京で仕事を見つけ、東京にある妻の実家に移り住む ・ 昭和41年 夫は妻に対して扶助せず ・ 昭和41年 妻が仲人、紹介者等の第三者に夫婦間の紛争内容を記した手記を配布 |
この裁判は、別居後の生活扶助をしない夫に対する妻からの離婚請求です。しかし元を出させば家を飛び出したのは妻です。
裁判でも東京での再就職の途を選ぼうとして、自ら進んで同居生活を捨てた妻に非がある(有責配偶者)と認定しています。
そのため別居期間中に夫が妻に対して生活費を渡すことを否定することはやむを得ないとし、夫が生活扶助をしないことは悪意の遺棄にあたらないとしました。
それらの結果として、妻からの離婚請求を裁判所は棄却しました。この裁判のポイントは2つあります。
- 有責配偶者からの離婚請求は悪意の遺棄にはならない
- 有責配偶者からの婚姻費用分担請求は認められない
有責配偶者からの離婚請求は悪意の遺棄にはならない(7-2-1)
1つ目のポイントは、有責配偶者からの離婚請求は悪意の遺棄にはならないという点です。
この裁判では、夫に相談もせずに妻が東京で就職を決めて別居したことを重く見ています。
また、妻が夫婦間の争いの実情を手記にして家族以外の第三者に公表したことも踏まえて、夫婦関係破たんの原因を作りだしたのは妻であると判断しています。
妻が有責配偶者である以上は、妻からの離婚請求は認められないという理屈のようです。
有責配偶者からの婚姻費用分担請求は認められない(7-2-2)
2つ目のポイントは、妻に対して夫が生活費の援助をしないことは悪意の遺棄ではないと判断したことです。
このことは、有責配偶者が婚姻費用(別居時の生活費)を請求することは認められないということを意味しています。
つまり婚姻費用を支払わない行為が全て違法行為というわけではないということです。別居理由と婚姻費用の支払いは、密接な関係があることがわかります。
この裁判例で私たちが覚えておくべき事は、以下の2つです。
- 身勝手に別居を開始しても婚姻費用は貰えない可能性アリ
- 身勝手に別居を開始した側に婚姻費用は支払わなくてよい可能性アリ
実家に帰省して帰らない妻への離婚請求(7-3)
横浜地裁判決昭和50年9月11日(判例時報811号85頁)を紹介します。
裁判の流れ | 【第一審】 ⇒夫(原告)が妻(被告)を訴えた 【横浜地裁判決昭和50年9月11日】 |
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夫婦の歴史 | ・ 昭和43年 婚姻 ・ 昭和46年 死産 ・ 昭和47年 妻は療法のため夫の了解を得て実家に戻り別居 |
この裁判は、病気治療のために実家に戻り、その後2か月に渡って夫の求めを無視して自宅に戻らなかった妻に対する夫からの離婚請求です。
この裁判では、悪意の遺棄を原因とした離婚請求自体は排斥されました。
しかし妻のわがままな行動により、もはや婚姻関係が破たんしているとして、婚姻を継続し難い重大な事由として離婚を認めました。この裁判のポイントは2つです。
- 2か月の別居では悪意の遺棄とは認定されない
- 悪意の遺棄でなくても離婚が認められた
2か月の別居では悪意の遺棄とは認定されない(7-3-1)
この裁判では、悪意の遺棄自体は認められていません。
裁判では、同居拒否の期間が2か月であるため、「共同生活を廃止する意思」が妻にあったとまでは認めませんでした。
しかし、悪意の遺棄でなくても離婚自体は認められています。なぜでしょうか?
悪意の遺棄でなくても離婚が認められた(7-3-2)
悪意の遺棄でなくても離婚が認められた事情を箇条書きにしておきます。
- 別居前の病院の診察では特に異常がなかったこと
- 夫は妻の実家を2、3日おきに訪問
- 夫の家の近くにも療養できる病院があることを説明
- 妻は健康が回復したら家に戻るとはいわずに別居を開始
- 妻は何一つ不自由がなく暮らせる状況だった
- 妻は夫やその両親に感謝の気持ちが全くない
- 妻と妻の両親は夫に罵詈雑言したが反省しない
以上の状況に加えて、夫婦双方の年齢(不明)、婚姻継続期間(同居期間4年、別居期間3年)、子供がいないという事情を踏まえて、婚姻が破たんしていると判断されました。
別居するように仕向けた行為を理由とした離婚請求(7-4)
浦和地裁判決昭和59年9月19日(判例時報1140号117頁・判例タイムズ545号263頁)を紹介します。
この裁判は、悪意の遺棄を理由として離婚が認められた貴重な一事例です。
裁判の流れ | 【第一審】 ⇒夫(原告・反訴被告)が妻(被告・反訴原告)を訴えた 【浦和地裁判決昭和59年9月19日】 |
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夫婦の歴史 | ・ 昭和49年 婚姻 ・ 昭和52年 長男出生 ・ 昭和54年 二男出生 ・ 昭和54年 妻が自宅を出て別居 ・ 昭和54年 夫が夫婦関係調整調停(離婚)を申立てる ・ 昭和55年 三男出生 ・ 昭和55年 夫の要求が一方的なため調停不成立 ・ 昭和56年 妻が自宅に戻る ・ 昭和55年 夫が妻を力づくで追い出す ・ 昭和55年 妻は長男・二男を連れて別居 ・ 昭和55年 夫は婚姻費用、養育費を不払い |
この裁判は、子供を連れて家出して別居した妻に対する夫からの離婚請求です。しかし裁判の中で夫は、逆に妻から離婚請求されることになりました。
夫は当初、妻が別居したことを受けて「悪意の遺棄」による離婚を求めていました。しかし夫が妻に暴力行為におよんだことや、力尽くで別居するように仕向けた夫の態度を踏まえて、夫の離婚請求を棄却しました。
むしろ婚姻関係破綻の原因は夫にあり、妻が別居したことはやむを得ないと判断したのです。その結果、妻からの「悪意の遺棄」に基づく離婚請求を認めました。この裁判でお伝えしたいことは1つだけです。
- 追い出すことも遺棄になる
追い出すことも遺棄になる(7-4-1)
遺棄と聞くと、置き去りにすることを想像します。しかしこの裁判のように配偶者を家出せざるを得ない状況に追い込み、追い出すことも遺棄になるのです。さらには同居していても協力扶養を拒否するような場合も、遺棄に含まれると考えられます。
身体障害者を置き去りにした事案(7-5)
浦和地裁判決昭和60年11月29日(判例タイムズ596号70頁)を紹介します。
裁判の流れ | 【第一審】 ⇒妻(原告・反訴被告)が夫(被告・反訴原告)を訴えた 【浦和地裁判決昭和60年11月29日】 |
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夫婦の歴史 | ・ 昭和31年 夫の不貞行為が発覚 ・ 昭和32年 婚姻 ・ 昭和41年 夫の不貞行為発覚 ・ 昭和51年 妻が癌に羅漢 ・ 昭和52年 妻が脳血栓発症 ・ 昭和55年 妻は脳血栓による右半身機能不全を理由に、身体障害者4級に認定 ・ 昭和55年 夫は妻と話し合うこともなく家出。生活費送金せず。 |
この裁判は半身不随になり身体障害者4急と認定されている妻を自宅に置き去りにして、家出して生活費も送金しない夫に対する妻からの離婚請求です。
裁判では、妻からの「悪意の遺棄」を原因とした離婚請求を認めました。
この裁判で「悪意の遺棄」が認められた最大のポイントは、妻が身体障害者であり日常生活が困難であるにも関わらず、夫がそれを知りながら置き去りにした点です。
夫の置き去り行為には、婚姻生活廃絶の積極的な意思が認められます。
最後に
悪意の遺棄で離婚を目指す方だけでなく、悪意の遺棄で訴えられる可能性のある方の参考になれば幸いです。