本記事では『婚姻費用と財産分与の違い』を紹介します!
婚姻費用と財産分与の違い
婚姻費用とは、別居中に発生する生活費のことあり、収入が多い側から少ない側に支払われます。その一方で財産分与は「婚姻期間中に築いた財産を分ける」ことです。
ですから別居期間を挟まず離婚する場合には『財産分与だけ』が問題になりますが、別居した末に離婚に至る場合には『婚姻費用と財産分与の両方』が問題になります。
ここで問題になるのは「配偶者が別居前に預金を勝手に持ち出した上で婚姻費用を請求する」ような場合です。
結論から言うと、婚姻費用はフロー(収入)に基づいて計算されるものであり、財産分与は、ストック(資産)に基づいて計算されるものである以上、配偶者が別居前に預金を勝手に持ち出したとしても「婚姻費用の支払いに影響は与えない」です。
支払う側からすれば「理不尽」の一言でしょうが、婚姻費用と財産分与は別々の概念であり、どちらかを支払ったらといってどちらかの支払い義務が消えるという性質のものではないのです。
専門家の見解
松谷佳樹判事は、以下のように見解を述べられています。
権利者が、別居時に夫婦の共有財産である預金等を勝手に引き出して、持ち出していた場合でも、この持ち出し金は基本的に財産分与の中で考慮されるべき問題であって、婚姻費用の算定においては考慮しないとするのが現在の家庭裁判所の一般的な取り扱いである。
そもそも算定表における婚姻費用の算定は、従前から資産の一部を取り崩して生活費を捻出していたなどの例外的な事例を除き、双方の資産(ストック)を基本的に考慮することなく、双方の日々の収入(フロー)に基づいて算定しており、例えば、義務者が多額の夫婦共有財産を管理していたとしても、特に婚姻費用額を増額しないのと同様に、権利者が夫婦共有財産を持ち出していたとしても、婚姻費用を減額しないのが原則である。
また、いくら持ち出したかが争いになるケースも少なくなく、これを婚姻費用の調停・審判で取り扱うのはやや審理が重たくなりすぎ、簡易迅速に決定されるべき婚姻費用の性質に反する。こうした問題は財産分与額の判断のときに処理すればよいし、それが問題の性質上適切である。
【引用:家事事件・人事訴訟事件の実務91頁】
松谷佳樹判事の主張はひらたくいえば、「婚姻費用は別居時の生活費であるので、すぐに金額を確定して支払いが実行されるべきものである。だから財産分与での論点をもちこまないのが合理的である」というものです。
しかし松谷佳樹判事の主張はあくまでも原則論であり、過去には「別居時の財産持ち逃げ」が婚姻費用に影響を与えた裁判事例もあります。
例外的な判例
妻が別居時に持ち出した預金が、財産分与に影響を与えた判例もあります。(札幌高決平成16年5月31日)
妻が別居時に550万円の預金を持ち出した上で、夫に対して月々7万円の婚姻費用の支払いを求めましたが、裁判所は妻の要求を求めませんでした。
判決では、以下のような見解が述べられています。
妻が共有財産である預金を持ち出し、これを払い戻して生活費に充てられる状況にあり、夫もこれを容認しているにもかかわらず、さらに夫に婚姻費用の分担を命じることは、夫に酷な結果を招くものといわざるを得ず、上記預金から住宅ローンの支払い充てられる部分を除いた額の少なくとも2分の1は夫が妻に婚姻費用として既に支払い、将来その支払に充てるものとして取り扱うのが当事者の衡平に適うものと解する。
最後に
婚姻費用だけの問題を考えるのであれば、「こっそり財産を持ち出した上で婚姻費用を請求する」ことが合理的になりますが、離婚で解決すべき問題は『婚姻費用』だけではありません。
婚姻費用で欲を出しすぎた結果、信頼関係が壊れてしまえば、その他の離婚条件で合意できなくなるリスクが高まりますのでくれぐれも注意する必要があります。
なお財産分与について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
