熟年離婚の財産分与において、どんな点に注意すべきでしょうか?
いざ財産分与のことを考え出すと色々な疑問が頭に浮かぶはずです。
- 財産分与はどれぐらいもらえる?
- 具体的な準備の手順は?
- 財産分与の時効は?
- 離婚後の生活費を見積もる方法は?
- 本当に離婚したほうがいいの? etc
本記事では上記の疑問を全て解決します。
熟年離婚の財産分与を成功させたい方は最後までお付き合いください。
熟年離婚の財産分与を成功に導く方法
以下のテーマに沿って熟年離婚の財産分与について解説していきます。
熟年離婚の財産分与の金額(1)
まず誰もが気になるのは熟年離婚で受け取れる財産分与の金額だと思います。
離婚問題は「相場」を語るのがとても難しいのですが、参考になるデータを紹介します。
上図は司法統計(平成25年度)の結果を元に、家庭裁判所で財産分与が争われた件数を、「婚姻期間」と「財産分与額」で整理した図です。
婚姻期間が長くなればなるほど、財産分与される金額が大きくなる傾向が読み取れます。
特に、婚姻期間が25年以上のカテゴリを見ると、1,000万円以上の財産分与が行われる件数が急増しています。「20年以上25年未満」のカテゴリよりも財産分与の金額が明らかに多くなっています。
では熟年離婚において、財産分与の金額が大きくなる傾向があるのはなぜでしょうか?婚姻期間が長ければ長いほど蓄財する時間があるのですから、財産分与の金額が大きくなるのは当然のように思うかもしれませんが、それだけが理由ではありません。熟年離婚の財産分与の特徴について解説しておきます。
熟年離婚の財産分与の特徴(2)
財熟年離婚の財産分与額を引き上げる大きな要因は以下の2つです。
- 不動産
- 退職金
不動産(2-1)
実は、財産分与は借金も分割の対象になります。
そのため、住宅ローンを完済するまでの期間において、不動産価格よりも住宅ローンの方が大きければ財産分与を期待できません。
一方で、熟年離婚では住宅ローンを完済していたり、完済していなくても住宅ローンの残債が残り少なくなっていることも珍しくありません。そのため、熟年離婚では不動産価格の1/2に近い金額分の財産分与が見込めるのです。
但し、不動産といっても相続などで取得した不動産は財産分与の対象外になります。なぜならば、財産分与の対象となるのは夫婦の共有財産だけだからです。
夫婦の共有財産とは、平たく言えば「婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産」のことです。そのため、不動産の名義、住宅ローンの名義が、配偶者片方の単独名義であったとしても、仮に婚姻期間中に住宅ローンを組み家計でやりくりして支払っていた場合には、財産分与の対象になります。
財産分与の具体的な手順については後ほど詳しくお伝えしますが、興味のある方は不動産価格を見積もることからはじめてください。
以下の記事では、無料で効率的に不動産価格を見積もる方法を詳しく解説しています。

退職金(2-2)
実は、熟年離婚では退職金も財産分与の対象に含められる可能性があります。
一般的に退職金は、財産分与の対象にならないことの方が多いです。なぜならば、退職金は受給するまで金額が確定していないですし、受給されるまでは企業が管理しているからです。勤め先に「離婚するので半分ください」と主張しても断られるのが一般的です。なぜならば、企業には財産分与に応じる義務がないからです。
一方で、熟年離婚の場合には既に退職金の金額が確定している可能性がありますし、既に支払われている状態のため、退職金を財産分与の対象に含めることが可能です。夫の退職日に妻が三行半を突きつけるのは、退職金を狙っての行動というわけです。
以上、不動産、退職金の2点が熟年離婚における財産分与の特徴です。その他の要素は、熟年離婚だからといって特別に準備しておく必要はありません。
さて、早速財産分与を成功させる手順を説明したいところですが、その前に最低限知っておくべき知識についておさらいしておきましょう。
財産分与の基本的な知識(3)
財産分与の基本的な知識を以下のテーマに沿って簡単におさらいしていきます。
財産分与の対象(3-1)
先程も少し触れましたが、財産分与の対象は「共有財産」のみです。共有財産とは、「夫婦が協力して築き上げた財産」のことです。
共有財産を計算する簡単な計算式を紹介しておきます。
- 「共有財産」=「夫婦の全財産」ー「相続した財産」ー「婚姻前からの財産」
つまり、住宅、車、金融商品(株、債券)などが夫婦どちらかの単独名義であったとしても、財産分与の対象になります。
さらに、注意しておくべきは、借金も財産分与の対象に含まれるという事実です。(但し、ギャンブルなどで浪費した借金は財産分与の対象外になると考えるのが一般的です。)
例えば、市場価格8,000万円の不動産に設定された住宅ローンが5,000万円分ある場合には、財産分与の対象金額は3,000万円(8,000万円ー5,000万円)になります。
財産分与の割合(3-2)
「財産分与の割合は原則夫婦で半分ずつ」と説明されることが多いです。
おそらく弁護士、司法書士、行政書士、裁判官の誰に聞いても同じ回答をするでしょう。
但し、上記の回答はあくまでも「原則」という注釈付きであることに注意してください。
そもそも離婚問題は裁判になるまで、話し合いで決着をつけるものです。そのため、極論ですが全ての財産をどちらか片方に全て譲るという条件であっても、夫婦が合意すれば問題ありません。
もしも財産を半分よりも多く欲しい希望すれば、交渉次第で半分よりも多い財産を勝ち取ることは可能です。逆にいえば、相手方が財産分与をしたくないと考えれば、財産を隠したり、過小に見積ったり、嘘をつくなどして財産分与から逃れようとするかもしれませんので注意する必要があります。
財産分与の時効(3-3)
財産分与は、離婚後2年以内なら請求できます。
離婚成立日とは、直接離婚届を役所に提出したのであれば離婚届に記入した届出日です。(以下の画像参照)
一方で、もしも郵送で離婚届を提出した場合には、記入した届出日と離婚成立日が異なる可能性があります。なぜならば、離婚成立日はあくまで役所が離婚届を受付けた日付になるからです。
以上の3点が熟年離婚の財産分与を準備する上で、最低限知っておくべき知識です。最低限知っておくべき知識をおさらいしたあとは、具体的な財産分与の準備に取り掛かりましょう。
なお、財産分与についての知識を網羅的に頭に入れておきたい方は、以下の記事を下さい。

財産分与を成功に導く4つの手順(4)
財産分与を成功に導く4つの手順を紹介します。
財産の全体像把握(4-1)
まずは、財産の全体像を把握することから始めましょう。
財産分与の対象に抜け漏れがあれば、納得感のある財産分与を成立させることは困難です。主な財産を箇条書きにしておきますので、金目の財産は漏れなく把握しておきましょう。
- 土地建物
- 自動車・バイク
- 宝石・貴金属
- コレクション(美術品・絵画 等)
- その他動産(家具・ブランド品 等)
- 現金
- 預貯金
- 株券
- 会員権
- 年金
- ペット
- 借金
上記の中には、そこまで財産分与の対象にしなくても良いと感じるものもあると思います。そのような場合には、無理して財産分与の対象にせずとも構いません。ちなみに、ペットは法律上はモノとして扱われます。
財産の証拠保存(4-2)
財産の全体像が把握できたら、財産があったことを証拠に残しておきましょう。なぜならば、財産は勝手に処分されてしまう可能性があるからです。
不動産、車、ペットなどは簡単に隠すことができないと思いますが、それ以外のものは案外簡単に処分することができます。株、債券などを売却して現金にされれば、財産が確かにあったことを立証するのが難しいです。
財産の証拠保存のためにも、通帳をコピーする、写真撮影するなどの地道な努力は欠かせません。
財産の査定(4-3)
財産の全体像が把握できたら、財産の査定をしましょう。
特に、財産の中でも金額が大きくなる「不動産」については、早めに査定をお願いすることをおすすめします。
なぜならば、不動産は市場の動きによって価格が変動するのが一般的ですし、不動産を査定する業者によって査定額に数百万円の差ができることも珍しくないからです。いざ財産分与する段階になってバタバタするのは避けなければなりません。
また、離婚後に自宅を離れてしまえば不動産を査定するのは困難です。なぜならば、不動産の正確な査定をする場合、不動産の内覧をお願いする必要があるからです。
不動産の価格を調べる効率的な方法は、以下の記事で解説していきます。

へそくりの確保(4-4)
財産分与の分け前をなるべく多く確保する一番簡単な方法は、へそくりを確保することです。つまり、財産を隠すことです。
しかし、財産を隠しは絶対に配偶者に気づかれてはいけません。なぜならば、財産を隠しが疑われると、離婚交渉自体がうまく進まなくなる可能性があるからです。「財産を隠しているのではないか?」と疑われたら先方も財産分与に消極的になります。そもそも、財産を全て開示するまで絶対に離婚しないと心を閉ざす可能性すらあります。
では、バレずに財産を隠すためにはどうすればよいでしょうか?
まず、大きな金額を一度に動かすのは控えましょう。そして、銀行振込を利用するのはいけません。へそりくを確保する理想の方法は、長い時間をかけて少額を現金で積み立てることです。そして、その現金を安全なところに移動させておくことです。
離婚後の新生活のことを考えれば、離婚を切り出す前から着々と準備をしておく必要があります。
(補足)関連記事の紹介(5)
最後に、熟年離婚を検討している方に参考にしてほしい記事を紹介します。
- 離婚後の生活費
- 年金分割
年金分割(5-1)
現代人が抱える一番のリスクは、事故のリスクでも病気のリスクでもありません。「長生きのリスク」です。
2016年11月某日現在、日本では年金生活者の年金すら減らそうと画策しています。具体的には「物価」、「現役世代の賃金」のいずれかが下落すれば、それらの下落に合わせて年金の支給額を減らす制度に変更になります。つまり将来、年金の支給額が増加するケースは、物価と賃金の両方が上昇するというバラ色の経済成長が実現される場合のみです。
与党は将来の現役世代の年金を確保するための「年金確保法案」だと主張していますが、野党は「年金カット法案」と主張しています。将来年金を受取る現役世代の立場からすれば年金確保法案になりますし、現在年金を受給している方々にとっては年金カット法案だと感じるでしょう。
いずれにせよ、離婚後の年金がいくらもらえるか興味があると思います。以下の記事では、年金分割の仕組みについて図を用いてわかりやすく解説しています。

離婚後の生活費(5-2)
離婚する前に離婚後の生活設計をしっかりしておきましょう。
以下の記事では、単身世帯の平均消費支出額を紹介しています。
人によって消費支出額には大きな開きがあると思うので、平均値を知ることにどこまで意味があるかわかりませんが、平均値からどれくらい離れているか把握する一つの材料にしてください。

まとめ
熟年離婚を検討している方に焦点を絞って財産分与について紹介しました。
一旦離婚すると財産分与を上手く進めることはできません。
後戻りができるうちに、財産分与を見直すヒントになれば幸いです。