働かない夫との離婚は認められるのでしょうか?
本記事では、夫の不労を原因として妻が離婚請求した裁判事例などを紹介します。
働かない夫と離婚できる根拠
働かない夫と離婚できる根拠はどこにあるでしょうか?
民法770条1項の規定によれば、離婚が認められる条件は以下の5つです。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない重度の精神病
- 婚姻を継続しがたい重大な事由
「不労」は離婚が成立する直接的な原因として認められていませんので、働かない夫と離婚するためには「ⅴ 婚姻を継続し難い重大な事由」を主張するしかありません。
婚姻を継続し難いと認められる条件
婚姻を継続し難いと認められるためには、正当な理由もないのに長期間働かない事実が必要です。
とはいえ具体的な事例がないとよくわからないでしょうから、働かない夫に対する妻からの離婚請求が認められた事例を3つ紹介します。
裁判事例
働かない夫に対する離婚請求が認められた事例を3つ紹介します。
定職につかず賭け麻雀で生計を立てる夫に対する離婚請求
東京高裁判決昭和54年3月27日(判例タイムズ384号155頁)を紹介します。まずは裁判の概要をまとめておきます。
裁判の流れ |
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夫婦の歴史 |
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この裁判では、定職に就かず賭け麻雀で生計を立てる夫と別居し、別居後、他の男性と交際を続けている妻からの離婚請求が認められました。
生活費は妻が薬剤師として働いた収入で賄っており、夫の妻に対する経済的な依存は強いものがありましたが、旦那には就労できない正当な理由があったわけではありませんでした。
妻は夫に就業するように要望し続けましたが、夫が自堕落な生活を続けた結果、妻の夫に対する不信感は決定的なものになり、離婚を申立てることになったというわけです。
裁判では、夫が妻との婚姻関係の継続を望んでいたとしても、もはやその回復は期待できず、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離婚を認めました。
なお妻は不倫相手と夫婦同然の生活を続けていましたが、妻に破たんの責任を負わせることはしませんでした。なぜならば妻による不倫は、夫との関係が破綻する時期よりも後に始まったものであると認定されたからです。
正当な理由もなく働かない夫に対する離婚請求
東京地裁判決昭和30年11月25日(判例時報71号19頁)を紹介します。
この裁判は、婚姻から15年後の43歳で失職し、その後就労しない夫に対する妻からの離婚請求です。
生計は妻がアメリカ軍関係の翻訳係として働いて立てていました。しかし過労のため心臓ノイローゼ症、貧血症、坐骨神経痛などを患うなどしました。
夫は生計を支える妻に暴言を吐き、親族から斡旋された仕事を拒絶するなどしました。夫が働かない期間は5年間にも及んだため、妻からの離婚請求は認められることになりました。
勤労意欲が無い夫に対する妻からの離婚請求
東京地裁判決昭和38年5月13日(判例時報339号32頁)を紹介します。
この裁判では、就職しても長続きせず職を転々としていた夫に対して、妻が離婚を申し出ました。
家族の生計は、妻が内職と夜のキャバレー(夫も了承済)で勤務することで立てていました。夫は、子供の面倒をみないばかりか、経済的に妻に強く依存していました。
経済的に依存する旦那に妻は愛想を尽かして別居に踏み切ったのですが、その後旦那は様々な一貫性のない行動にでます。
妻の別居に憤慨した旦那は「他の女性と結婚するから離婚しろ!」と迫ったり、それで妻の気が引けないとわかると妻に懺悔を求める手紙を送り続けたり、しまいには離婚裁判を阻止するために居所を明らかにしないまま転居する等の行動にでるのでした。
裁判所は、妻との夫婦生活に協力する意思が感じられないとして、「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚を認めました。