本記事では、扶養的財産分与についてわかりやすく解説します。
扶養的財産分与とは?
財産分与といえば一般的には「婚姻期間中の財産を夫婦で半分にわける」(清算的財産分与)ことを意味しますが、財産分与には他にも「扶養的財産分与」や「慰謝料的財産分与」もあります。
本記事で取り上げる「扶養的財産分与」とは、離婚後の生活のめどが立たない場合に発生しうる財産分与のことであり、例えば「結婚後に専業主婦になった妻が離婚後に仕事に困るような場合」に発生しうるものです。
ですから以下のような場合には、精算的財産分与が発生することはありません。
- 精算的財産分与が見込める
- 遺産相続等でかなりの資産がある
- 一定の収入があり、生活に困らない
通説を紹介するだけではイメージが湧きにくいと思いますので、扶養的財産分与が「認められた事例」と「認められなかった事例」についてそれぞれ紹介していきたいと思います。
扶養的財産分与が認められた事例
まずは扶養的財産分与が認められた事例をいくつか紹介します。
100万円の扶養的財産分与を勝ち取った事例
妻が清算的財産分与を含めて合計約3,650万円の財産分与を勝ち取った事例があります。( 東京地判平成9年6月24日 判タ962号 224頁)
妻が勝ち取った財産の内訳は以下のようになっています。
- 清算的財産分与金 ⇒ 2,382万円5,000円
- 未払い婚姻費用 ⇒ 1,168万円
- 扶養的財産分与 ⇒ 約100万円
注目すべきは扶養的財産分与として約100万円の支払いを裁判所が認めている点です。
なおこの事例において扶養的財産分与は現金で支払われておらず、妻が居住用の不動産を取得することで扶養的財産分与を成立させました。
マイホームの賃貸契約を勝ち取った判例
妻がマイホームの賃貸契約を勝ち取った事例があります。(名古屋高判平成18年5月31日 家月59巻2号 134頁)
ある夫婦の場合、財産分与の対象となる不動産があったのですが、残念ながら資産価値がマイナスでしたので「売却」するという選択肢も「名義変更」するというも現実的ではなく、住宅ローンはマイホームの名義人である夫が支払い続けることになりました。
しかし夫婦には子供が3人おり、離婚後は子供は妻が引き取ることになっていたため、妻は清算的財産分与としてマイホームの『使用賃貸契約』を求め、裁判所は妻の要求を支持しました。ちなみに使用賃貸契約の期間は長男が小学校を卒業する8年間でした。
元夫婦という関係性において「使用賃貸契約」を締結する意味があるのだろうか?と疑問に思った方もいると思いますので補足します。
実は「使用賃貸契約」を締結することによって「住む側」の権利が強くなるというメリットがあります。
具体的にはマイホームの名義人である元旦那が住宅ローンを支払えなくなり自己破産したというような場合であっても、すぐに追い出されずに済むというメリットがあります。
扶養的財産分与が認められなかった判例
次に扶養的財産分与が認められなかった事例を紹介します。
月額20万円の支払い請求が認められなかった判例
妻が夫に対して、自分が亡くなるまで月額20万円の支払いを請求した事例があります。(東京高判平成10年3月18日 判時 1690号66頁)
裁判所は「妻が多額の財産を保有している」ことと、「妻は相当な価値のある自宅に住んでいる」ことを理由にして、妻の請求を棄却しました。
厚生年金の定期金支払いが認められなかった判例
妻が夫に対して、厚生年金収入の2分の1の支払いを請求した事例があります。(東京地判平成12年9月26日 判タ 1053号 215頁)
裁判所は「夫から1,500万円の財産を受け取れること」および、「妻には国民年金の収入があり、生活水準を確保できる」ことを理由にして、妻の請求を棄却しました。
後遺傷害を理由に扶養的財産分与が認められなかった判例
妻が交通事故に遭った夫に対して扶養的財産分与を求めた事例があります。(大阪高決平成17年6月9日 家月58巻 5号 67頁)
裁判所は「夫には後遺傷害があり定職に就くことが事実上困難」である上に、妻にはパート収入が月10万円ほどあるとして、妻の請求を棄却しました。
最後に
扶養的財産が認められるケースは極めて稀ですので、仮に裁判で主張しても、徒労感に襲われる結果になる可能性が高いでしょう。
なお財産分与について詳しくは以下の記事を参考にしてください。
