夫婦の実態がないのに婚姻費用を支払う必要があるのでしょうか?
婚姻費用の基本的な考え方
婚姻費用の根拠は民法760条にあります。
夫婦は、その資産、収入、その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
【民法760条】
夫婦である以上は婚姻から生ずる費用を分担する以上、議論の余地があるとすれば「夫婦」の意味するところでしょう。
例えば一方的に別居を開始したり、交流を断絶する相手を「夫婦」と解する必要があるのでしょうか?
一般的には、以下の主張が適用されることが多いです。
婚姻関係から生じる義務は、婚姻という法律上の身分関係から生じる義務であって、双務契約による義務のように牽連性があるものではないから、例えば権利者が同居義務を履行しないからといって、義務者が婚姻費用の支払を停止することが正当化されたり、支払義務を免除されたりするものではない。
婚姻関係が破綻状態になっていたからといって、法律上の婚姻関係を解消しない限り、婚姻費用の支払義務を免れるべき法律上の根拠は見出せない。
【引用:家事事件・人事訴訟事件の実務 90頁】
つまり夫婦関係が破綻していても婚姻費用の支払義務から逃れることはできないという主張です。
ちなみに破綻して形骸化した夫婦は、民法760条の「夫婦」に含まないという学説もあるにはありますが、一切の費用負担から免れることができるわけではないようです。
夫婦が別居するに至っており、もはや共同の婚姻生活が営まれていないとみるべき場合には、婚姻費用分担義務はないと考えるべきだろう。(中略)
しかし扶養義務は消滅しない。
【引用:大村敦志 『家族法(第3版)』64頁】