子育て中の夫婦が、離婚を思い悩む最大の理由の一つは養育費です。養育費を貰う側、支払う側の双方にとって頭の痛い問題です。さまざまなことに頭を悩ませると思います。
- 養育費の相場は?
- 養育費を計算する方法は?
- 養育費の支払いはいつまで続く?
以上の疑問は、夫婦のどちらも共通して疑問に思うことだと思います。また支払う側であれば以下の疑問が頭に浮かぶでしょう。
- 養育費から逃れる方法はないのか?
- 再婚しても支払う必要はあるか?
一方で養育費を請求する側であれば、以下のような疑問が頭に浮かぶでしょう。
- 養育費を確実に払わせる方法は?
- 相場より高い金額は請求可能か?
- 支払われない場合の対策は?
本記事ではこれらの疑問を一つずつ解決していきます。その結果、離婚を断念するのもよし、離婚準備を進めるのも自由です。
あなたと子供の将来を考える上で、ベストな答えにたどり着くことを祈っています!
養育費を自動計算する方法(1)
養育費の金額は、子供の年齢や人数、支払う側の年収・受け取る側の年収、雇用形態に応じて決まります。
巷では、算定表なるものを利用して養育費を計算するのが一般的ですが、インターネット上で必要な数値を入力すると自動算定してくれる計算機もあります。
但し、支払う側の年収が2,000万円を超えていたり、再婚相手との子供がいる場合には、こちらの計算機を利用してください。
養育費の基本知識(2)
養育費の基本的な知識について解説していきます。
- 養育費算定の「年収」
- 養育費の権利者
- 養育費の相場
- 養育費の用途
- 養育費の支払い期間
- 養育費の支払い方法
- 養育費と親権の関係
養育費算定の「年収」(2-1)
養育費の算定において、いつ時点の年収を適用するか明確な決まりはないようですが、年収が確定している昨年度の年収を用いるのが一般的なようです。
サラリーマンであれば、昨年度に比べて年収が劇的に上昇する可能性は少ないので昨年度の年収でも問題ないでしょうが、昇進などにより年収の大幅な上昇が見込める場合には、いつ時点の年収を適用するか交渉する必要があるかもしれません。
なお低い年収を元に養育費を算定して合意したとしても、将来的には増額した年収ベースの養育費を請求することは可能です。なぜならば養育費算定時の前提事項が変われば、養育費の請求額には変更が認められるからです。
逆にいえば、年収が下がれば一度決めた養育費の金額を減少させることも認められているということです。支払いが長期間におよぶ養育費においては、養育費の金額は変動することは往々にしてあります。
なお養育費の自動計算で用いる「年収」は「月収の12倍」ではありません。不安な方は以下の記事を参照してください。

養育費の権利者(2-2)
『養育費を請求する権利は子供にある』ため、仮に夫婦が離婚前に養育費を受け取らない約束をしても、子供が養育費を請求する権利が失われるわけではありません。
親が養育費の請求を放棄したとしても、「養育費を請求する権利は本来子どもの権利であること」を根拠に改めて請求することも可能ですが、一旦放棄したものを改めて請求することが認められるのは「著しく大きな不利益(※注)が子供に生じている場合」に限られるようです。
「著しく大きな不利益」が具体的に何を指すのかということや、受け取っていない養育費をいつの時点から請求できるのかの判断は、裁判所でも判断が別れるようです。
養育費の相場(2-3)
母子世帯の1世帯平均月額の養育費は、43,482円です(上図①)。しかし43,482円はあくまで平均です。
子供の人数が多くなればなるほど養育費の金額は大きくなります。
- 子供1人(35,438円)
- 子供2人(50,331円)
- 子供3人(54,357円)
- 子供4人(96,111円)
以上が養育費の相場なのですが、養育費の相場を知ること自体にはあまり意味はありません。なぜならば養育費は夫婦の収入格差を元に算出されるからです。
例えば年収1億円の夫が、離婚後に低所得者になった妻と子供に対して月額4万円の養育費の支払うことは、十分な義務をはたしているとは言いにくいため、両親の収入や子供に与える教育の質などに応じて、養育費の金額は柔軟に対応する必要があります。
養育費の用途(2-4)
養育費のやり取りでトラブルになるのが養育費の用途です。「それって、養育費として支払わなければいけないの?」という不信感が支払う側にあると、気持ちよく養育費を支払えなくなる可能性もありますので、養育費の範囲について確認しておきましょう。
養育費の範囲は「子供が社会人として自立するまでに必要となるすべての費用」であり、具体的には以下の項目が養育費の対象になります。
- 衣食住の経費
- 教育費
- 医療費
- 娯楽費
- 小遣い
- 交通費
養育費の支払い期間(2-5)
支払い期間は、お互いの取り決めで決めることができますが、(養育費の算定表に従わなくても)お互いの合意さえあれば、算定表の結果より少なくても多くても問題ありません。
子供がいる状態で離婚した夫婦のパターンとしては、以下の3パターンが多いようです。
- 20歳の誕生日まで
- 成人式を迎えるまで
- 大学卒業の22歳まで
養育費の支払い方法(2-6)
養育費は、定期金として負担するのが一般的です。ですから毎月の○○日までのように具体的に取り決めることをおススメします。もちろん負担する側の同意があれば、一時金(一括で支払うという意味)として請求してもOKです。
養育費と親権の関係(2-7)
子供を養育する義務は、親権の有無に関わらず発生します。離婚して別れた元専業主婦の妻であろうと、親権を奪われた夫であろうと子供を扶養する義務があるのです。
養育費の応用知識(3)
- 養育費と面会交流権の関係
- 養育費を請求するコツ
- 養育費を支払わせるコツ
- 再婚時の養育費の取扱い
養育費と面会交流権の関係(3-1)
離婚問題を難しく感じてしまうのは、離婚問題の一つ一つが独立していないからです。
例えば日本では『養育費』と『面会交流権』がバーターの関係として扱われている結果、「母親が親権をもつ一方で、父親が養育費を支払わず子供とも会わない」というケースも珍しくありません。
面会交流とは、子供が親権を持たない親と会う権利のことです。
なぜそうなってしまうかというと、親権をもつ母親の立場からすれば「養育費も支払わないのに、可愛い子供に会うなんて不届きは許さない」と考えるからであり、その一方で父親の立場からすれば「養育費未払いの状態で、子供に会わせてほしいとは主張しずらい」と考えるからです。
しかし子供にとっては養育費の支払いがないことも、父親と面会しないことも望ましくありませんし、国の立場としても貧困の母子家庭が増えることは生活保護世帯の増加を意味しますので、社会保障を圧迫する状況を改善するために、さまざまな取り組みをスタートさせています。
例えば平成24年4月1日には民法第766条が改正されています。民法766条第1項を以下に引用しますが、赤文字の箇所に注目して下さい。
父母が協議の上離婚するときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
【民法766条第1項】
「父又は母と子との面会及びその他の交流」は、面会交流権といわれる部分です。また「子の監護に要する費用の分担」は、養育費についての記述です。
民法改正される以前は明文化すらされていなかった「面会交流権」と「養育費」が明文化されたことは大きな変化ですがそのような考え方は離婚届にも反映されています。
離婚届けには、面会交流権と養育費の分担について「取決めをしている」、「まだ決めていない」に当てはまるものにしるしをつけるように指示があります。そして注意書きには、以下の文言が印字されています。
未成年の子がいる場合に父母が離婚をするときは、面会交流や養育費の分担など子の監護に必要な事項についても父母の協議で定めることとされています。
この場合には、子の利益を最も優先して考えなけえればならないこととされています。【引用:離婚届】
「まだ決めていない」にチェックをつけても、離婚が認められないわけではありませんが、未成年の子がいる場合には、面会交流と養育費を定めるべきというメッセージを離婚届から感じることができます。
養育費と面会交流権について話しあわなければいけないことに気付いていない人も一定数いますから、一定の効果が期待できるでしょう。
養育費の取り決めをしない理由を調査した厚生労働省の調査結果です。赤文字部分に注目して下さい。
- 相手に支払う意思や能力がないと思った(48.6% ①)
- 相手と関わりたくない(23.1% ②)
- 取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった(8.0%)
- 取り決めの交渉がわずらわしい(4.6%)
- 相手に養育費を請求できるとは思わなかった(3.1%)
- 現在交渉中又は今後交渉予定(1.0%)
- 自分の収入等で経済的に問題がない(2.1%)
- 子供を引き取った方が、養育費の負担をすると思っていた(1.5%)
- その他・不詳(7.9%)
養育費を請求するコツ(3-2)
養育費の金額は「養育費算定表」を用いて計算するのが一般的ですが、養育費算定表の結果に必ずしも従わなくてもいいのです。養育費の算定表に従わなくても、お互いの合意さえあれば、算定表の結果より少なくても多くても問題ないのです。
但し、養育費の算定表から大幅に逸脱した養育費の取り決めは、協議離婚でのみ成立するのが一般的です。
離婚調停や離婚裁判では、算定表から大幅に逸脱した養育費の取り決めがされることはまずありません。なぜならば養育費の算定表はよくできているからです。(算定表より高い養育費であれば、支払う側は生活が厳しくなりますし、算定表よりも低い養育費であれば、受給する側の生活が厳しくなるという意味で。)
養育費は長期間にわたりやり取りが発生するものですから、どちらか一方に無理があると続きません。相場以上に養育費を請求する場合には、支払う側の年収に余裕があることが絶対条件です。
養育費を支払わせるコツ(3-3)
養育費を支払ってもらえる可能性を高める工夫について知っておきましょう。
実は、子供と養育費を支払う側の交流頻度が高いほど養育費がスムーズに支払われているという事実があります。
ですから養育費の支払いをスムーズにするために以下の点にご注意ください。
- 子供の前で夫を褒める。
- 感謝の気持ちを伝える
- 支払う側の両親を頼る
(※ 支払う義務は無し)
養育費を支払う側の「報われている感」を積極的に醸成することを心掛けましょう。
さて、養育費を支払わせる最も確実な方法は、離婚協議書を強制執行認諾約款付の公正証書にすることです。
公正証書があれば、養育費未払い時に財産や給料を強制的に差し押さえることができますし、逆に公正証書を作成していなければ、裁判所で申し立ての手続きをする必要があります。
離婚後に仕事に都合をつけて裁判所に向かうのは、かなりの負担になるはずですし、弁護士に代理を依頼するにもそれなりの費用が必要となるはずですので、可能な限り公正証書を作成することをおススメします。
なお公正証書作成時には養育費のみならず、面会交流権や財産分与、慰謝料などについて取り決めるのが一般的です。離婚条件全般について、公正証書で取り決める方法については、以下の記事を参照してください。

再婚時の養育費の取扱い(3-4)
公正証書は「一度決めたら絶対に変更できない」という性質のものではありません。例えば以下のケースでは養育費の受取額の減額が認められる可能性があります。
- 支払う側の収入が減額
- 支払う側が転職を繰り返し、職場がわからない
- 支払う側が再婚して子供が生まれた
- 受け取る側が再婚して世帯収入が上がった
その一方で養育費の増額を求めることが可能なケースもあります。
- 子供の進学先に応じた教育費の増加
- 養育している親の失業や転職による収入の減少
- 病気や怪我による医療費の大幅増加