「離婚不受理届」をご存知ですか?離婚不受理届とは、離婚届けを提出しても離婚が受理されないための手続きです。
「離婚は離婚したい側の人間だから離婚不受理届は関係ない」と安易に考えてしまう方はとても多いですが、それは間違いです。
実はできる限り満足のいく離婚を望む人こそ「離婚不受理届」を提出すべきなのです。本記事では、離婚不受理届けを提出すべき理由や手続きについて詳しく解説します。
離婚不受理届けの効力(1)
まずは、離婚不受理届けの効力から説明させてください。
離婚不受理届が効力を発揮するのは、「協議離婚」による離婚届のみです。協議離婚とは、夫婦合意の元で役所に離婚届を提出することで成立する離婚手続きのことです。つまり調停離婚、裁判上の和解離婚、裁判判決による離婚については離婚不受理届の効力は及びません。
勝手に離婚届を提出されたらどうなるか?(2)
勝手に離婚届を提出されたらどうなるでしょうか?離婚届の基本は、夫婦双方が離婚に合意していることですので、勝手に提出された離婚届は本来無効になります。
しかし離婚届の無効を認めてもらうためには、調停や裁判で主張を認めてもらう必要がありますので、離婚無効の手続きの第一歩は家庭裁判所に離婚無効の調停を申立てるところからはじまります。
離婚調停の場であなたには離婚の意思がないことを主張し、相手もそれに同意しなければいけません。しかし勝手に離婚届を提出する配偶者が、自らの非を認めることは考えにくいですから、調停が不調(不成立)になることは明らかであり、裁判で勝訴する必要がでてきます。
以上のように、離婚の無効を求める手続きは経済的にも精神的にも負担が大きいですし、配偶者の身勝手な行動により大きな負担を強いられるのは納得がいかないはずですので、離婚届不受理届を提出しておくに越したことはありません。
ここで注意すべきなのは、もしあなたが離婚を希望していたとしても離婚不受理届は提出すべきだという点です。
離婚不受理届を提出すべき理由(3)
離婚不受理届けを提出すべき代表的なケースは以下の4つです。
- 婚姻費用の支払いを止められたくない
- 親権・面会交流権を決めて欲しい
- 慰謝料・解決金を支払わせたい
- 財産を見積もる時間を稼ぐ
婚姻費用の支払いを止められたくない(3-1)
婚姻費用とは、別居中に支払われる生活費のことです。婚姻費用は、収入が多い側から、収入の少ない側に支払われるのが特徴です。
例えば別居する前は専業主婦だった妻の立場を考えます。専業主婦の収入はゼロですから、夫から婚姻費用が支払われます。この婚姻費用の支払い義務は、離婚するまで続きます。
夫からすれば近い将来離婚する妻に対して生活費を支払うモチベーションはわかないと思います。ですから婚姻費用の支払いに疲れた男性の中には、離婚協議もそこそこに離婚届を提出してしまう人がいます。
「どうせ離婚するんだからいいだろ?」という主張です。このような夫の身勝手な主張に押し切られないためにも、不受理届を提出しておくべきです。
親権・面会交流権(3-2)
離婚届には、離婚後の親権を夫婦どちらにするか記載する欄があります。親権は子供をどちらが育てるか決める大変重要な要素ですから、勝手に提出されるわけにはいきません。
また親権を失う側の立場からすれば、離婚後に子供を交流する機会(面会交流権)は是が非でも欲しいでしょう。面会交流権について協議されないうちに離婚届が提出されることは、納得できないと思いますので、念のため不受理届を提出しておくべきなのです。
慰謝料・解決金を支払わせたい(3-3)
慰謝料を法廷で争う場合には、相場より極端に高い慰謝料は望めません。しかし話し合いで慰謝料を決める場合は、相場より高い慰謝料を請求できる可能性があります。
例えば不倫相手との間に子供を生まれたのを機に、離婚を望む男性がいたとします。このまま妻と離婚しないままでは、子供の戸籍の父親欄に自分の名前を載せることはできません。
なぜならば男性は既に別の戸籍(あなたと一緒の戸籍)に入っているおり、複数の戸籍に入ることは日本では認められていないからです。
不倫相手と心機一転、新たな生活を望む夫の立場を考えれば、お金で解決したいと考えるのは不思議ではありません。
一方で妻側の立場を考えれば、相場より高い慰謝料を請求できるチャンスをみすみす逃すわけにはいきません。
ただし、高い慰謝料を請求できるのは結婚している条件があってこそです。離婚した後の慰謝料交渉では高い慰謝料で決着をつけることはできないでしょう。
財産を見積もる時間を稼ぐ(3-4)
婚姻関係が長ければ長いほど、財産分与の対象となる夫婦の共有財産は多いはずです。
財産分与の一番のポイントは、財産の全体像を正確に把握することに尽きます。例えばどちらか一方が財産隠しをしている場合には、一部の財産を半分にすることに意味はありません。
ですから夫婦の共有財産をリストアップし、それらを正確に見積もることにはある程度時間が必要になります。財産額を見積もる時間を稼ぐ意味でも、離婚届不受理届を提出することには意味があります。
離婚届不受理申出書の提出方法(4)
離婚届不受理申出書の手続きは、とても簡単です。以下の2つステップで手続きは完了します。
- 提出する本人が不受理申出書に署名&押印
- 夫婦の本籍地の役所に提出
簡単な手続きにも関わらず、回避可能なリスクは計り知れません。なお申出書は郵送することも可能です。
しかし離婚届不受理申出書が役所に届くまでの間に離婚届を提出されてしまう可能性も否定できません。ですから可能な限り直接役所に手続きすることをおすすめします。届出先と必要な書類を以下に補足しておきます。
届出先(4-1)
届出先は、届出人の本籍がある市区町村役所です。しかし、住居地など本籍地以外の市区町村役場に提出も可能です。
必要な書類(4-2)
必要な書類は以下の3点です。
- 離婚届不受理申出書
- 本人確認書類(運転免許証・パスポート等)
- 印鑑
離婚届不受理届けの取り下げ(5)
離婚協議が満足のいく結果でまとまれば、離婚するために「離婚届不受理届の取り下げ」が必要です。
なおインターネットや古い書籍では、離婚届不受理申出書の期限は提出から6ヶ月と説明されていることがあります。しかしこれは誤りです。
現在では法改正により、「取り下げ」の手続きを行うまでは無期限に有効が続きます。
最後に
これから離婚交渉をする予定がある方は、心の平安を保つためにも早めに「離婚届の不受理申出」の手続きを終えておきましょう。